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注目の著者インタビュー

「野の花ズームアップ」

関 太郎さん

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野の花ズームアップ

2010/04/22

 この本は広島・山口・島根を中心とした中国地方に生きる植物をまとめたものです。
 自分で写真を撮りまして。ズームアップと言う表題があるように、顕微鏡でもなく肉眼でもなく……。いわゆるルーペですね、ルーペで覗いた20倍程度の写真を載せているところがミソです。読者の方にも、この本を通して植物を観察するという疑似体験をしてもらいたいなと考えましてね。しかしそれは、非常に撮影するのが難しいのです。
 私はもともとコケの研究が専門なんでが、非常な微細なものを撮影するのは得意でしたから、その技術を駆使してましてね。図鑑類は本屋で買えますけど、この本のような拡大写真を伴った書籍はまず見かけないですね。

 例えばこのイヌビアというイチジクの仲間の写真なんて、なかなか見かけません。というのは、このイヌビアの中に、2種類のハチが写っているんですが、ハチと共に写っているイヌビアの写真は、これまで全く掲載されていないのです。そのハチがいないと、イチジクは熟さないという事はさまざまな本に書かれていますが、写真がないのです。この本に載っている写真が初めてなんですよね。
 しかもこの写真のように、イヌビアにとって有益なイヌビアコバチが、天敵のオナガイヌビアコバチに襲われている絶体絶命の瞬間というものなんて、とても貴重ですよ。その他にも、写真として興味深いものがたくさん載っています。ですから植物の知識を得るだけでなく、写真を楽しむ視点で見ていただいても、非常に興味深いものがあると思っています。

 私は松山の出身で、高校生のころから山登りが好きでしてね。あちこちに登りに行っていました。四国の山はすごく急なんです。渓谷は奥に行けば行くほど、山の中に入り込んで行ってしまうのです。しかし、広島の渓谷。例えば三段峡なんて、杖を杖を突いて渓谷を登って行くと、ぱっと開けた場所に出るんですよね。そこは一面に水田が広がいて、人が住んでいる集落があるんです。四国の感覚でいましたから、あれにはびっくりしました。
 広島県全体の地形が三段構造になっていまして、一番上の段は人が住んでいませんけど、二段目には三次盆地のように水田と集落が広がっています。その段と一番下の段の間が急傾斜になってまして、山と渓谷があるんですよね。ですから、そこを歩いているときは山奥だなと感じるんですが、登りきると人がらくさんいる。ですから、全体的に昔から人が住んでいましたから、自然に人の手が入っているのを感じます。

 しかし四国と比べた場合、中国地方特有だなと思うことがいくつかありまして。一つはアジア大陸から朝鮮半島を経由して来た植物は、広島あたりで大体留まっているものが多いんですよね。四国や関東には全くないものもありますしね。ですから私は、ここら辺のことを、植物の正倉院だと感じているわけです。
シルクロードを経由してた文化は、奈良の正倉院で今でも保管されていますが、その途中では失われてしまっている。植物の場合はアジア大陸から来てきて、だいたい広島や岡山あたりで止まっているんですよね。そういった非常に特殊な植物を、広島ではいくつも見かけることができるのです。

 でも実はそれらが今、絶滅の危機に瀕しているのです。人間が自然を破壊するからではなく、いつも人間が下草や雑草を刈って手入れをしているような、里山やあぜ道といった環境でないと、生きることができないためなのです。農村が過疎化して人がいなくなり、山に手を入れる人がいなくなったため、こういった植物たちが行き場を失ってしまっているのです。きちんと人の手が入った里山の道の横には、さまざまな珍しい植物がたくさんあったんですけど。不思議ですね、人が手を加えると無くなってしまう植物もあるし、手を加えなくても無くなってしまう植物もある……。

 ですからやはり、人が手をかけてないと成立しない自然というのが本当に難しい。例えば里山周辺の松林で、一昔前までは燃料としてマツボックリを採ったりマツ葉を掻いたりして、地面がいつもきれいになっていたのです。そうすると自然とマツタケが生えてきたわけです。けれども1960年代にプロパンガスが普及してからは、農家の人が松林に入らなくなってしまいまして、次々と他の木が生え、うっそうとした薮になってしまったのです。その結果、全くマツタケが無くなってしまったのですね。

 それでいま、人が手を加えて保存する自然というものが見直され始めていまして。例えば安芸太田町の棚田ですね。景観を保全するだけの目的ではなく、文化はもちろん、水田やその周りに生きる動植物の保護にも繋がっているわけなんです。そういった観点からも、自然や動植物にもっと目を向けてくれる人が増えるといいなと考えています。

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関 太郎さん

著者プロフィール

関 太郎

1934年愛媛県生まれ。1966年に広島大学大学院理学研究科博士課程植物学専攻修了後、1998年まで広島大学理学部に勤務。専門は植物分類学・植物地理学で、現在もフィールドワークを続けている。広島大学名誉教授。主な著書に「広島県植物誌(中国新聞社)」「瀬戸内海辞典(喃々社)」などがある。

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