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注目の著者インタビュー

「暮らしのなかの左右学」

小沢康甫さん

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暮らしのなかの左右学

2009/12/17

日々の生活をより楽しく

 左右の魅力に取り付かれたきっかけは、はっきりと思い出せません。左右に関する資料はすべて大学ノートに収めていて、それを見ると古くは昭和40年代半ばの記事が貼ってあります。どうやら学生時代には関心が芽生えていたようですね。

 最初に気になっていた左右は、トラック競技の左回りだとか、車の右側・左側通行だとか。どうもその辺から、左右がおもしろそうだなと若い私なりに感じ取ったみたいなんです。それからだんだんと、左右の奥深い世界に引き込まれていってしまったんです。

 左右の世界って、身近な事柄から解きほぐしていった方が、より具体的で分かりやすいんです。遠い世界のことよりも、我々がいつでも見ることのできるものですよね。例えば、衣服の右前・左前についてですと、洋服と和服は違いますよね。それはなぜなのか。それから住まいのなかの左右では、障子やフスマを2枚組み合わせる場合、なぜ向かって右側を手前にしているのか。
ささいなモノや事柄なんだけど、それこそがひょっとしたら、文化の本質に迫る材料になるのではないか、などと思ったりしているんです。ともすれば我々は「枝を見て、木を見て、森を見ず」なんてことを言って、枝葉を見ることを馬鹿にするじゃないですか。でも僕は、“枝葉末節”をキチンと観察することで、それが幹へ、根っこへとつながり、コトの本質にたどり着けるのではないかと感じるのです。
 
 先ほどお話ししたフスマの右手前。おもしろいことに、明治以降に普及する窓ガラスも右手前ですよね。窓ガラスが入ってくるずっと以前からフスマや障子は日本にありました。ですから、伝統の建具の合わせ方が、窓ガラスという新米の建具にも影響を与えたんじゃないかと思われるんです。左右を糸口に考えていくと、こうした思いがけない広がりが出てきて、たまらないんです。日常の小さな事柄から、悠久の歴史が浮かび上がってきてワクワクしてきます。

 それから、フスマの合わせ方というのは着物の合わせ方にそっくりなんですよ。だから、あの右手前は着物の右前に見習って生まれたのではないか、そういう仮説も立てられるんですね。そうやって想像を膨らませ、推測することがとっても楽しいんです。
 しめ縄の左右なんかもおもしろいですね。神社の社殿に掛かっているしめ縄。実はあれ、両端の太さが違っていまして、向かって右側が太いって決まっているんです。これを「ないはじめ」と言います。左側は尻尾のように細くなっていますよ。こちらは「ないじまい」。ほとんどの神社がそうです。しめ縄の向きなんて適当に掛けてるんだって思わずに、少し興味を示すだけで深く関わっていくことができるんですよ。それで、どうしてかなぁと思って調べていくと、それは実は神道の本質に関わることが分かってきたんです。

 一説によれば、神社の建て方に関係があるみたいなんですよね。おおむね神社は、南向きに建てられていまして、それもなぜだろうかという疑問が湧いてきます。さらに調べていくと、なんと古代中国の思想にさかのぼるんです。つまり、天子南面思想と言いまして、皇帝は南に面して座るんです。ですから北に座って南に面する。この南面思想は北極星を基にして考えられたものでして、天子を不動の姿で北の空に輝く、北極星になぞらえたんです。そうすると、北に座れば、当然、南に面することになりますよね。日本の平城京や平安京も、内裏は北の端にあるでしょ。そこに天皇がおられます。ということは、天皇も南に面するわけですね。中国の天子南面思想に基づいて、街づくりがそうなっているからなのです。こうした都の造りに「右へならえ」で、神社も南面して建てられてきたといいます。だから神社の南面は、どうやら古代中国の思想に由来しているのではないかと。

 しめ縄は通常、向かって右端の方が太い、とお話ししました。南面する神社から見て、左側は日の昇る東に当たります。右側は日の沈む西です。そこで、朝日の昇る左側、参拝者から向かって見れば右側を上位とみなしているんですよ。ですから、しめ縄も、ないはじめの太い方を向かって右側の上位にもってくるのです。あのしめ縄が手繰っていくと中国の思想にまでつながるなんて、驚きです。

 左右を切り口にすることで、何気なく見ているものが歴史の深みをのぞかせてくれて、僕の興奮は一気に高まるんです。だから“右往左往”しながらも、左右の探検はやめられないんです。
街の中や道端のそこらじゅうに左右の不思議はあふれています。ただ、もったいないことに、注意の目がほとんど向けられていないんです。草の蔓が右巻きか左巻きか、などというのも、調べていくと夢中になれます。みなさんにはぜひ、「左右」という名のモノサシを手に、地元を歩いてみてほしいのです。ありふれた風景がにわかに輝きはじめ、いとおしくなってきますよ。

 気づいて、分からないから調べる。左右の謎ときはその繰り返しで、頭脳のみずみずしさを保つ効能もあります。だから、この特効薬を今後も服用していくつもりです。なにしろ副作用がゼロ。これもうれしいことですね。


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小沢康甫さん

著者プロフィール

1947年大竹市生まれ。銀行勤務を経て、RCC中国放送に入社。数々の番組制作などに関わった後、2007年に退社。広島大学非常勤講師などを務め、現在は広島の出版社で編集者として活躍している。

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